090506

白黒印ノ茸煙草

*絵は削除



あー、まりさタバコすってるーふりょー

「ん … こりゃタバコじゃねーよ」

ちがうのかー ?

「こいつはな、一服すりゃたちどころにこの世の真理が見えるとゆーありがたぁいお薬様だ」

しんりかー

「おおよ」

しんりなー

「なんでぇ … 真理に興味あんのか ? 」

ん〜 … あるかもー

「 まじ ? 」

じーまー

「真犯人の“しん”に魔理沙の“り”だぞ ? 」

じこーせーりつまであとさんぷんー

「 … 」

と、ごじゅーろくおくななせんまんねんー

「 … わけもわからずてきとーに反応してるだろ ? 」



「 ? 」

ルーミアはー

「む ? 」

なにものなのかー ?

「お」

どこからきてどこへゆくのかー ?

「おお」

きどえすとべりたすー

「おおお ! 」

うすうすきにはなってたー

「お … おまえ … 脳味噌あったんだなぁ」

わりとー

「そーかぁ … あったかぁ脳味噌 … う〜ん … 意外だぜ」

いがいせーのルーミアー

「いや … 野育ちの阿呆妖怪にも真理を求める脳味噌があったとはなぁ … まりささんちょっとマジ感動」

あほとかんどーのルーミアー

「なんつーの ? ほら … 神の御業の奇跡 ? 」

おぷすでいー

「うんうん … ああなんか目ん玉から水が出てきちまったぜこんちくしょーめ ! 」

なくなーこれではなかめー

「うん … すまねぇ … って、これ私のエプロンじゃねーか」

きもちがだいじー

「うーまぁいーやじゃあおまえも真理追究してみる ? とくべつに一本わけてやるぜ ? 」

ただかー ?

「ったりめーよ … こっち来な」

おー

「 … ほれ咥えろや火ぃ移してやっから … あ … 肺は ? 肺もあるよな ? 」

おそらくー

「うん … 息吸いな … 火ぃ着かねぇぞ … よぉし … したらな、思いっきし肺まで吸い込んでみ」

んー

「思いきりよく … そーそー… で、そこで止めるっ ! うん、吐くなよ吐いちゃあいけませんよ」

んんんー

「頭んなかでマリササンハビジンダを九回唱えてぇ … 」

… ー

「そんでもってゆっくり吐き出すゆぅ〜くりとだぞ」

ぷっはー

「よぉし上出来上出来」

うーあー

「どぉでぇ ? 」

ん〜 ?

「うん、いきなりはこねぇわな … ま、いまのを何回か繰り返してりゃそのうちくるからのんびり追究しな」

おー

「さて … 私も追究を再開せねばなっと … 真理様〜おいでませ〜」



「 … 」



「ぷはぁ〜」

ぷはー

「 … 」



「 … 」



「 … 」

… あ

「ん ? 」

お ?

「きたか ? 」

おおー ?

「きたんだな ? どんなんだ ? 」

そーかー

「なぁ、どんなんだよ ? 教えろよ」

そーなのかー

「なになにねぇねえ話せよぉ」

そーだったのかー

「教えろよぉけちけちすんなよぉ」

う〜むー

「共に真理を追究する同志じゃんかよぉ」

まさかなー

「なに ? まさかってなぁに ? 」

はぁー

「な、なんだその溜息は ? その目はなんなんだよ ? どーしてそんな目で私を見るんだよっ !? 」

んー

「溜めるなっ ! そこで溜めるんじゃねぇよっ ! 」

しかしなー

「うああ … お願いっ ! 教えてっ ! なにを見たのか教えてっ ! 」

みつけたー

「な、なにを ? 」

えいえんー

「だぁぁぁっ ! 」

ぼーどれーるー

「これいじょー焦らされたら死んじゃうっ ! いーのか ? 私が死んでもいーのかっ ? 」

ぜひもなしー

「あるわいっ ! 」

このよにはー

「この世には ? 」

しらないほーがいーこともあるー

「 … あのな 」

しらないほーがしあわせー

「 ? 」

がんばれーまりさー

  「 … おまえ … ほんと … なに見たんだ ? 」




090424

txtのみ ( 絵は削除 )



「馬鹿がっ ! 」

うん …

「馬鹿どもがっ ! 」

まったく …

「あんなカスども、みんな喰われっちまえばいい ! 自業自得だ ! 」

そうね …

「おまえもこんな馬鹿げた話に関わるこたぁないぞ。ほっとけ ! 」

うん … そうしたいのはやまやまなんだけど

「私は知らんぞっ ! かんけーねぇぞっ ! ぜったい、ぜったい、ぜぇったい関わらねぇからなっ ! 」

気持ちは痛いほどわかる … でも

「あいつらが喰われてなにかこまることあるか ? 」

それは …

「妖怪が馬鹿な人間を喰う … いーじゃねぇか … 戻るだけだ。昔に」

それは …

「まさか、おまえまで脳味噌蕩けちまってるんじゃないよな ? 」



「人と人外が仲良く楽しく暮らす幻想郷ってか ? はっ ! 」

それは …

「ここがどーゆー場所か … 創ったおまえらが忘れるわけないよな ? 」

それは … もちろん

「ここは、あくまでも、あいつらの世界だぜ ? 」



「あっち側で居場所の無くなった人外が人外らしく生きることのできる場所 … それが本来の幻想郷じゃねぇのか ? 」

それは … わかってる

博麗がそれを忘れるわけがない

「人間は、はっきり言やぁあいつらの食料 … 兼、生活文化の供給源だ … もともとは」

まぁねぇ …

「もちろん、私は人間だからそんなの愉快じゃねぇし、人外どもの都合におとなしく合わせる気なんざさらさらない」

でしょーね …

「私は私の生きたいように生きるよ」

うん …

「でもな、命がけだぜ ? 世界の本来的な在り様を蹴っとばして生きるってぇのは」

うん …

「それが … なんだ ? あの馬鹿ども」

うん …

「ちょっと人と人外の関係が穏やかになったからってほいほい浮かれやがって」

うん …

「聖地巡礼だぁ ? マヨヒガに行ってきますぅ ? ど阿呆がっ ! 」

ねぇ …

「だいたい、どーやってマヨヒガに辿り着くつもりだったんだよっ ? どカスがっ ! 」

あー … なんかてきとーに歩き回ってわざと迷えば必然的にマヨヒガに行き着くって理論だったらしいわよ

「… まぁ、どこにだって馬鹿の一匹や二匹はいるもんだから、それはしょーがない … と、してもだ」

うん …

「その馬鹿が行方不明になったからなんだってんだよ。ぜぇ〜んぜん問題ねぇじゃねぇか」

うん …

「それを … それを … 」

それを … ねぇ

「紫たちに捜索を頼むぅ ? どんな脳味噌してたらそんなこと思いつくんだ ? 」

無茶よねぇ …

「し、し、しかも、その依頼の仲介を私たちにしろぉ ? 」

私だって開いた口が塞がらなかったわよ …

「それも、町のお偉方どもの総意ってなんだよっ ? 」

おまけに、自分の実家がその中心だものねぇ … いくら縁を切ってるって言っても

「ひとりくらいまともな脳味噌持ってるやついねぇのかってんだよっ ! 」

いなかったようね …

「喰われちまえっ ! 一人残らず妖怪にでもダンゴ虫にでも喰われっちまえっ ! 馬鹿がっ馬鹿がっ馬鹿どもがっ ! うああ … なんか眩暈がしてきた 」

息継ぎしながら喋ったほうがいいわよ …

「… とにかく … 私は … やだからな … 」

うん … でも

「でも … なんだよ ? 」

あんたの気持ちはよくわかる …

っていうか、私も気持ちはまったくいっしょなんだけど

… ただねぇ

「ただ ? 」

お偉いさんたちのことはともかく …

知らんぷりはちょっとまずいんじゃないかって思うのよ …

「なんで ? 」

気にならない ?

「なにが ? 」

… 稗田

「… ? 」

あんただって気がついてるでしょ ?

最近のあの子 …

「 ? … あ … ああ … そーゆー … 」

うん …

「 … そーか … うん … あのチビか …」

危ないとおもわない ?

「そうな … ああ … ひとつ間違うと … 」

でしょ ?

「んん … たしかに、ちょっとばかりまずいな … 」

お偉いさん連中おかしな具合に盛り上がってるし

私たちがぐずぐずしてたら

それこそなにやらかすかわからないわよ、あいつら

「 … まいったぜ … 」





090417

「八雲一家 1929 Graubunden +Q」

晩飯にでた鰹のたたきの余韻に浸りつつ

番茶をすすりながら八雲家のアルバムを囲んで食後の団欒





「でもぉ」

両手で持った湯呑みをとんと下ろして口を挟んだのは狐の忠実な式

「写真は嫌だ苦手だって言いながら、藍さまいつもカメラ目線です」

「ちぇ、橙〜っ」

「そーそー、こっちを油断させといて自分だけカッコつけるの … 策士よねぇ」

「策士ですねぇ」

「う、うう …」

たしかに …

前面でなにかを覗き込んでいる紫と橙

後ろの狐だけがカメラ目線で澄ましている

「ね、むかつくでしょ ? 」

「はは … 」

なんと応えればいーのかわからんわい !

生笑いで誤魔化しながら、手にした写真を裏返す

1929 Graubunden

「グ、グラウ … 」

「グラウビュンデン」

「ビュンデン … これも墺太利ですか ? 」

「瑞西 … 瑞西のど田舎 … 吸血鬼の本家に行ったときのね」

「はぁ … は ? 吸血鬼って、あの ? 」

「そう、紅魔館 … レミリアの本家」

「彼女の実家とお知り合いだったですか ? 」

「実家じゃないわ。スカーレットは分家だから」

「分家 … 」

「まぁ、あの一族の分家の数は半端じゃないから、その中じゃ限りなく主流に近い家だけど … 」

「ふぅん … ん ? でも、吸血鬼の原産地って … 」

「ええ、根っこはもっと東〜」

言いながら、肘をついた右手を顎からはずしてそのまま横へ東〜というジェスチャを見せる

「今でも領地はあるし住んでる者もいるけど、一族の安定を考えるとちょっと具合の悪い土地なのよ」

「そなんですか」

「そう … で、何百年かあちこち彷徨ったあげくに落ち着いたのがそこ … 150年くらい前だからついこないだのことね」

「 … はぁぁ … あ、もしかして、それが目的だったんですか ? 洋行の」

「ぜんぜん ! 遊びまわってたら向こうから接触してきたのよ」

「でも、妖怪ってことは隠してたんですよね ? 」

「およそ知性をもつ妖で八雲紫の悪名を知らぬ者はこの天が下に存在しないのですよ」

新しい番茶を差し出しながら、狐が主に代わって応えた

「へ … あ、どーも … あ、ああ … そーゆーもんなんですか」

「そーゆーものなのよぉ … 困っちゃわよねぇ」

式の言葉に気を悪くした様子もなく

それどころか、ちょっと嬉しそうに唇を歪めながらうなずくと

ずず〜っ

八雲紫は美味そうに茶を啜った





090414

鬼が舞う 〜 語り/霧雨魔理沙

txtのみ ( 絵は削除 )




「おー、春だなぁ。鬼が舞ってるぜ」





雀の屋台でしこたま呑んでの帰りちょっと飛んだら吐きそーになった

酔い覚ましがてらぶらぶら歩きながら手持ち無沙汰なので箒を元気に振り回していたらほんとに吐いた


おえッ


しゃがんで、吐いて、すっきりして、立ち上がって、涙を拭いて、見ると

目の前の野原で鬼が舞っていた

三角だ

顔は封じられていてわからない

どこぞの式らしい

こんな物騒なのを放し飼いにするとはマナーを心得ない主だ

けしからん

でも

ま、いーか

なにしろ、私は今、実にいー具合に酔っ払っているからな

なんかすげー気持ち良いのとすげー気持ち悪いのが渦巻きになってすげーぜ

「うひょひゃひゃひゃ ! 」


おえッ


また吐いた

今度は立ったまま前屈みになって、吐いて、すっきりして、涙を拭いて、見ると

鬼が舞を止めてこっちを見ていた

ちょっとばつが悪かったぜ

酔っ払ってても羞恥心を忘れず、他人の迷惑を考える

そのへんが私のえろいところだ

いや、偉いところだ

「あー、邪魔だった ? まりささんおじゃま丸 ? ごめんねー」

素直に謝るしな

うん、偉い

でも

ときどき、素直になれず、妙に意地っ張りになってしまうのは何故 ?

「それは、私が少女だから ? 」

可愛らしく首を傾げてみた

… あー、まぁ、返事を期待していたわけじゃないぜ

うん

しかし、まだ見てるな

えーと

「まりささんうるさい ? うるさいですね ? こらー、まりさ静かにしろー ! はいっ ! まりさ静かにしまっす ! 」



まだ見てるよぉ

ちょっと声でかかったか ?

う〜ん …

こっちが力いっぱい謝れば謝るほど機嫌悪くなるやつっているよな

そっち系 ?

まぁ、それなら

「あー、ほんと悪ぃ … もう邪魔しない … 」

軽く片手を挙げて見せ

そこで止めときゃいいものを

つい

「邪魔は良くないよな … よくない…うん」

「他人様の愉しみを邪魔しちゃあいけません … ひじょーによくないっ ! 」

「他人の愉しみ邪魔するやつぁ甲斐の国なる信玄さまのぉ〜ってか」

「うひょほひょひょっ」

はぁ …

それがまずかった

うん

まずかったんだよなぁ

鬼のやついきなり反応しやがんの

うん

なんかこぉ

両手をばっと開いたかと思ったらくるりと廻ってぴょんと跳ねてな

それから右半身になってそのままとっとっととととっとなこっちに寄って来るんだもんそりゃ怖かったぜ

「ひっ ! なっ、なに ? 怒ったのか ? 怒ることないじゃん ! まりさ謝ったじゃん! ごめんなさいしたじゃん ! 」

とととととと

謝っても鬼はいよいよ肉迫してきたね

あやまってもあやまってもおにはにくはく

なんて今になって言えるのであってそのときそのばじゃもおあなたあれよ

「なによお〜、ま、まりさ強いぞ ! まりさ、やるときはやるぞ ! うおおおっ ! 箒だっ ! まりさの箒は痛いぞっ ! 」

哀れな鬼に警告しながら、私は箒を抱きしめ背中を敵に向ける必殺の構えをとったね

いやぁ、さっさと逃げればいーものをそれがそーはいかないのが酔っ払いだぁあはは

とととととととととととととと

「ひいいいっ、いやぁっ ! いやぁあああああっ ! 」

とっとっとっ、とん !

「いやああああっ … とん ? 」

つんつん

「うひひゃほええっっっ !! 」

もお犯されるくらい仕方ないと覚悟を決めて歯を食いしばってる美少女の肩甲骨の下あたりを絶妙な力加減でつんつんしたら

そりゃ、ぴょんと跳ねてくるりと廻るだろ ?

廻らない ?

ふつー廻るけどなぁ … まぁ、いいや

でな

くるりと廻って地面に戻れば目の前に鬼だよとーぜん

「うはっ」

完全に間合いだダメだやられたやられたってこれからやられるんだけどどんなことやられちゃうんだろう


どきどき



どきどき



「 ? 」



うん

なにもしてこねぇの鬼のやつ

ただ私の顔をじっと見てるだけ

この霧雨魔理沙を思うがまま好きにできるのにだぜ ?

馬鹿にしてるだろ ?

この小さな胸のどきどきはいったいなんだったのかだよな

ただ顔をじーっと見られてもなぁ … 困るじゃん ?

で、まぁ

しょーがないからこっちも見返してやったよ

じーっ

じーっ

じーっ

じーっ

あああああああ

ダメっ !

私、こーゆーのダメっ ! 悪いけどあんたみたいなタイプぜんぜんわかんないしっ !

ヤバい状況にはかわらないけどさすがになぁ

おお、そーそー、ふつーそーだよな ? キレてもおかしくないよな ?

でも、そこは私も少女だけど精神年齢は大人だから訊いたわけよ。れーぎただしく

   「えーと … それで … なんなの … かな ? なんか言いたいことでもあるわけぇ ? 」

ま、ちょっとばかり口調がぞんざいになるのはいたしかたなかろ ? 酔っ払いだし

したらな

鬼のやつかくかくうなずいて、なんか知らんが手をひらひらさせんのよ

「 ? … あ … ああ … 喋れないのか … 」

そりゃ喋れないわな … 怨霊で式で封じの面被ってりゃ

自分の意思があるらしいってだけでも珍しいや

その己の意思を伝えよーと鬼のやつ懸命に手をひらつかせてるわけだ

こーなると、そー無碍にはできないよな ?

あ、まぁ、おまえならできるだろーけど、私には無理なのっ !

で、だ

さっき私が口にした台詞がきっかけになったのは確かだからそのへんを頼りに

「ん〜 … と … 甲斐の国 … ? 」

鬼がかっくんかくんうなずいたよ

「あー … おまえの生国 ? 」

こんどは首を横に振る

「えー … 信玄マニア ? 」

違う ?

「じゃあ、信玄に怨みがあって … 」

ぶんぶんぶん

今度は首と手を両方横に振る

そーじゃなくってぇ … とゆー感じで手をひらつかせ、それからなにやら踊りめいた仕草をしてみせる

「 舞 ? 」

うんうんうなずいて、でも、ちょっと違うとゆー手振り

ほらぁって感じで私を指差す

「あ、歌 … さっきのアレ ? 」

そーそー

「松の葉 ? 」

鬼がぽんっと手を打ちくるりと廻った

「好きなのか ? 」

うんうんうん

そーかそーか、なるほどなるほど

「いーよな」

うんうん

「春の朧月には松の葉だぜ」

ぴょんくるりっ





小唄好きに悪い奴ぁいねぇ …

かどーかは知らないけどさ

言葉は鞠だよ、うん

あっちで弾んでこっちで弾んで

あーだこーだなりだしちゃうってぇと

喋れるとか喋れんとかかんけーねーのな

ぽんぽん弾んで

そいつを追っかけてるうちに

あれ ?

ここどこ ? 私はなんでここにきたんだろう … ?

ってこともありんすう〜

はぁ …

「ゆめのゆめのよのなかでひとがなにをどー謡おーがかってじゃんなぁ ? 」

どーゆー流れで出てきたんだか知らねぇけど

気がつきゃ私はそんな台詞を喋ってて

鬼は鬼でそれにうんうんうなずいてた

うんうんうんとな

「謡いたきゃ謡うよなぁ … 舞いたきゃ舞うよなぁ … でんでんむしじゃねーんだから」

なんででんでんむしなのか言ってる自分でもわかりゃしないんだけど …

う〜ん

そのでんでんに腕組みして深くうなずく奴がいりゃぁ … な


鬼はうなずいて


上げた面を背後の原に振り向けらぁ


私の顔もそっちを向くよ


なぁ …


春とはいえ虫にはまだはやいや


鳥も塒で夢の通い路






ああ







ああ



そーか





月に照らされた空ろな原を

鬼と私とならんでぼんやりながめてたさ

肩んあたりに気配を感じて

見たら鬼の指が袖をそっとつまんでるんだな

「 … 」

「あ … 謡えってか … 私に ? 」


うんうんうん


うなずかれても …

なぁ

「 … すまん … 無理」

え〜、ってのけぞることもあるまいに

「あー、ちゃんと知ってる歌なんかひとつもないし、だいたい自分で言うのもなんだが私は音痴なんだ」



うんうんうん


それでもいいから、と、袖を引かれりゃ …


なぁ


うー、だいぶぬけてきた

あ ? ああ

結局、月が落ちるまでつきあったよ

知ってる歌を適当に繋ぎあわせてでっちあげて … おかげでこの声だぜ

ああ … 水 … 悪ぃな … はー ! うめぇ

でもさ、綺麗だったぜ、鬼の舞いは …

おおよ

あ ?

私の歌で楽しそうに舞えるってのは鬼も音痴だったんだろう、って …

非道いこと言うなおまえも

真実の鬼はおまえだね

や〜い、鬼巫女ーっ ! わっ、ごめっ … ああ、痛ぇ … 今の本気だっただろう ? ったく

ん ? 鬼か ?

消えたよ

空が白んできたなあと思って見上げた顔を戻したら … もう消えてた


そーな



そーかもな



うん


ま、いーんじゃないか ?



ほら



「 … その小桜の望月の、いつそ消えたや花の下露」



ってな





080221

最近烏が多いな庭の木に巣でも造ったかまぁいい烏くらい

などと広い心で高をくくっていたら天狗が人里出張所を設置していた無断でそれも門脇の一等立派な松に

まぁ私自身には覗かれて困るような後ろ暗いところなど微塵も皆無であることは論を待っても無駄であります

が自分さえ良ければそれでいーのか何も問題は無いのかというとそーゆーものではないのですね世の中って

我が家に仕える者の中には若い娘も少なくはないし年頃ならば後ろ暗いところの一つや二つあるのが人並みですか ? ちくしょう

はたまた翻りつつ気配りを巡らすならば門前を通行する皆様もじろじろ見下ろされて気分の良かろうはずがありません

世間体って大事です ― とっても

やはりこれは速やかに立ち退いてもらわねば困るのでそう言い渡してこいと命じてみても家の者一人残らず天狗なんて怖いから嫌だと申します

当主の私は怖くないのかと問質せば怖がられたいんですか嫌われますよ可愛いだけが取り柄なのにこのチビと開き直られました

ここは阿求様御自らビシッと言ってやってくださいよねぇほらほら

厨の土間のその隅にしゃがんで嘘泣きする私に家人揃って追い討ちなどと人の心の暗部は量り知れませんいやまったく

後のことはまかせろ ?

日の丸小旗打ち振り放り出されても相手は天狗だ私だって怖いわい

謝るから家に入れてください




080215

「地獄」


世界は黄昏と夜更けを繰り返している

四季を通して開け放たれた窓には簾が懸かっている

過剰な光は無い

隈なく布団が敷き詰められた四畳半は薄暗くどこもかしこもふかふかである

過剰な音も無い

たまに、どこか遠くから夜雀の歌声が幽かに流れてくるくらいだ


「仕事」ってなんですか?

目が覚めるといつも夕方

鍋が煮えている

水炊きである

布団の上で食う

なかなか好い豆腐を使っている

買いに行かなくてもちゃんとポン酢がある

食い終わるとおせっかいな白黒が簾を押し上げ窓から入ってくる

口数は少ない

鍋や小鉢を洗いながら二言三言

片付けが終わるとあっさり帰る


また寝る


ここは…





080122

「ルーミア」


冬枯れのデンデラ野を黒い球体が漂っている。

なにか歌っているようだ。

「るーみあはー」

「なにものなのかー」

「どこからきてーどこへー」

「いくのかー」

「やみのなかのるーみあはーいきてー」

「いるのかー」

「しんでいるー」

「のかー」

「わからないー」

「ふかくー」

「てー」

「こーちゃくえんー」

「ばんー」

「じしょーのちへー」

「せんー」

「じょーはつー」

「するー」


先日、永遠亭に連れ込まれてからずっとこの調子だ。

みんな心配しているぞ。



070611

「八雲の中の八雲たる八雲」

 〜博麗議定書の裏に書かれていた落書き



アーメン

アーメン

汝は時と場所を見る者である

アーメン

汝は径を見る者である

あるいは綻びを結ぶ者である

アーメン

汝は星を見張り

時と場所を告げなければならない

アーメン

汝は木の下影を覗き

径を告げなければならない

アーメン

汝は聞かなければならない

汝は聞かなければならない

時と場所と径を聞かなければならない

アーメン

汝が見、告げ、聞く、時と場所と径は

汝が知るべき時であり去るべき時である

汝が知るべき場所であり去るべき場所である

汝が知るべき径であり辿るべき径である

アーメン

知るべき時を知りその時を忘れる者は幸いである

アーメン

去るべき場所より去りその場所を捨てる者は幸いである

アーメン

径を辿り去る者は幸いである

アーメン

忘れるべき時を忘れ、捨てるべき場所を捨て、去るべき径を去った汝こそ幸いである

アーメン

我は汝に名を与え隠す

汝は与えられた名を覚え隠さなければならない

汝の名は

全ての星が全ての場所を告げるひとつの場所である

汝の名は

砕けた月が全ての時を告げるひとつの時である

汝の名は

去る者が来る径である

アーメン

アーマンである我は汝でありその場所を鎮る者である

アーメン

アーマンである我は汝でありその時を保る者である

アーメン

アーマンである我は汝でありその径を衛る者である

アーメン

アーメン

アーマンである八雲と

アーマンである八雲の中の八雲と

アーマンである八雲の中の八雲たる八雲の名に於いて



アーメン



070530

目が覚めて

まだ世界が在る


070526



早朝

マヨヒガの勝手口

暗い屋内から笊を手に出てくる橙

純白の道服姿

そろそろ八雲らしいなりを

ということで狐が仕立ててくれたものだ

まっさらの白に梢と朝日が造る斑

ところどころ煌くのは織り込まれた九尾の金毛

毎日、家でちょっとだけ着る

汚れるから遊びに行くときは着ない

いや、

実は一度だけ

氷や雀に見せびらかすために着ていった

サイズが合ってないとからかわれた

確かにかなりブカブカ

だが、それも

「子供はすぐに大きくなるから」

という狐のバカ親心

応えねばと思う

頑張って早く大きくなろう

目標は

百年くらい

…うん

あっと言う間だ


070408

「蓮子 春溶」

春が

零れる

春が

溶ける

影が

掠める

蓮子?




061130


美鈴vs魔理沙―紅魔館内無限回廊での模擬戦闘


美鈴はけして弱くない。
普段の手応えの無さは、性格の甘さによるもの。
絵に描いたような“お人好し”。
それも本当に弱点なのかどうか―
そう信じて彼女を侮るモノもいる。
と言うか、たいていのモノがそうだ。
だが、
そのたいていに魔理沙は荷担しない。
「わかんないよな」
と思う。
絶対の強さ弱さなど、誰にわかる?
確かに、
普段の紅魔館訪問で負けた憶えは無い。
虫けらのように踏んづけて通ることもある。
それでも、
侮っていい相手ではないと思う。
そんな相手なら、
「なんで、こんなに楽しいんだ?」
魔理沙にもよくわからない。
だから、
答は本人に訊く。
「中国うううっ!」
「はいぃ?」
馬鹿に呼ばれてお人好しが現れる。
それまで気配の欠片もなかった場所から、ふらりと、
当たり前のような顔と声で。
馬鹿好みの真正面。
「訊きたいことがあるっ」
「どぉぞネ」



061124  魔理沙  眼下の敵

vs美鈴  紅魔館内無限回廊での模擬戦闘

…のまま、機首を真横に振って急制動。
はしたない大股開きで梁に片足を突っ張り慣性を殺す。
が、まだ半殺し――残りは気合いで殺したおす。
無茶な機動に暴れる愛機から体が跳ねる。
対処は無意識と汗ばんだ両手にまかせ、思いきり首を捻る。
遥か下をお気に入りの帽子がひらひらと墜ちていく。
目は、そのまだ下に見えるはずの姿を探す。
いない―
「どこだ?」



061219

毎度、毎度、
馬鹿正直に正門から突入するのは何故だ?
馬鹿だから。
「ちがうっ!」
正面が美鈴の持ち場だからだ。
毎回、毎回、
ほとんど一方的に勝利しながら、
それでも飽きないのは何故だ?
馬鹿だから。
「ちがう、ちがうっ!」
迎撃に上がってくるのが美鈴だからだ。
何故、こんなに楽しいのか?
「なんでだろうなー?」
魔里沙にもよくわからない。
馬鹿なのかもしれない。
が、
問答無用で蹴散らすこと、
それが楽しいわけではない。
「ぜったい、そんなんじゃないぞ」
それではただのイジメっ子ではないか?
「そんなんじゃなくて」
なくて?
「なくてぇ…あーっ、なんでだっ?」
もういい。
考えるな。
動け。
廻るな。
真っ直ぐ突っ走れ。
それが霧雨魔里沙だ。



061129

夕暮れ時のピクニック。
主の提案。
いつもの気まぐれ。
黙って従う狐と猫。
スキマを抜け、
草に埋もれた石段を登る。
登りきると、
ただ一面の野原。
はるか昔、神社があった場所。
思い思いにぶらつき、佇む三人。
山の端に掛ったまま動かない夕日。
いつまでも終わらない夕焼け。
無言の告知。
無言の了解。



061123

「夜雀」

何と言うか、「新日本紀行」的風景。

これから彼女は、
屋台を置いてある森までこの巨大な獲物を運ぶのである。
重くて飛べないので、たっぷり一里はある道を歩いて運ぶのである。
森に辿り着くと、
すぐに屋台を組みたて、
休む間もなく鰻を捌き、串に刺すのである。
そこでようやく一休みなのである。

・・・ 腰を下ろしてボーっとする雀 ・・・

しかし、
あんまりボーっとしていると何をしてたか忘れてしまうのである。

だから、
憶えているうちにそそくさと仕事に戻るのである。

火を熾し、焼きにかかるのである。
タレを引くのである。
引いたタレが煙に乗って漂いだす頃、
まず、呑んべぇの鬼が現れるのである。
それから、
未成年の魔女や、
いつもツケの巫女や、
下戸の氷や、闇や、虫などが、
夜道や夜空をふらふら流れて来るのである。
時には、
狐や門番が、この世の憂さを捨てに来たりもするのである。

彼女たちを相手に、
夜更けまで、
雀は鰻を焼き、
燗をつけ、
グチを聞いたり、
喧嘩の仲裁をしたり、
食い逃げを追いかけたりするのである。

書いててもう胸が締めつけられるようなのである。

ワシより百万倍は偉いな。





061109

「狐」


 一人でひとつめの千年の時を駈け

二人でふたつめの千年を漂い

三人でこの地に留まり

時を数えることを

止めた


博麗の大結界と呼ばれるこの地

幻想のモノドモが集い

幻想の領土を宣言するここにも

やはり

 日輪は巡り

月星は其れを追う



それらもまた

幻想の眷属


ならば


時は

流れているのか?

ここは

在るのか?


とうの昔に

止めていた


考えることを


止めてから

どれほどの時が

流れたのか


数えることを


忘れた


時は、

流れたのか?

本当に?


己は、

在るのか?

本当に?


数えることも

考えることも


狐は


止めていた


とうの昔に

止めて


止めたことすら


忘れていた


狐が忘れて

いくつの

千年が

流れたのか?


本当に

流れたのか?


永遠は


もう


終わっている